#016 "慢性閉塞性肺疾患+大動脈狭窄症を持つ高齢者の終末期のケア"
“ピッツだより”をご覧の皆様、こんにちは!
頴田病院医師の松口 崇央です。前回の緩和ケア領域での学びはいかがだったでしょうか?
今回は前回に続き、9月にUPMC(ピッツバーグ大学メディカルセンター)より、老年医学・緩和ケア領域に活躍されているホフマスター先生をお招きし、実際の症例を通して僕らが得た学びをお届けしようと思います!
今回のテーマは本邦でも既に問題になっている高齢者に関する話題です。患者さんが治らない病に罹り、その進行により終末期に差し掛かったとき、僕ら医療者は患者さんの何をみて、何をしてあげられるのかを考えます。今回は同じく頴田病院医師の金先生の経験をもとに皆様に僕たちの学びを共有していただければと思います。
慢性閉塞性肺疾患+大動脈狭窄症を持つ高齢者の終末期のケア
【ケース】
80歳 男性 COPD(Stage 4)、重症大動脈弁狭窄症の既往のある患者さん。20年間呼吸困難(MRC3、NYHA4)症状あり。液体型携帯酸素を求めて当院に紹介された。
既往歴:慢性閉塞性肺疾患、大動脈弁狭窄症、高血圧症、高脂血症、軽度認識機能障害
生活歴:妻をなくしていてずっと一人暮らし。犬の散歩はきつくてできていない
薬:カルボシステイン、吸入ステロイド、吸入抗コリン剤、吸入長時間作用型ベータ刺激薬
短時間作用型ベータ刺激薬
【問題点】
#1 慢性閉塞性肺疾患 #2 AS #3 腰部脊柱管狭窄症 #4 変形性膝関節症 #5 軽度認知機能障害 I #6 独居(介護保険:要介護2)
金先生(以下:K):この患者さんの生命の予後予測はどのように考えたら良いですか?
ホフマスター先生(以下:H):癌患者と非癌患者(癌以外の慢性疾患)では病状進行の仕方が違うよね。癌患者では、予後予測がはっきりしていて、診断から一定期間はADL低下がなく、最後に雪崩をうつように悪くなって死に至る。機能状態の記載法としてはECOG(0-4:日本でも使われている Performant Status と一緒)を使っています。
非癌患者では、予測が難しいんだ。ADL(Activity of Daily Living:日常生活動作)は少しずつ悪くなっていき、時々増悪(心不全だったり、慢性閉塞性肺疾患の増悪だったり)が起きて、一気に悪くなったり、改善しても元の生活レベル(ADL)に戻らない。増悪を繰り返しながらADLは下がっていくが、そのタイミング予測なんかは難しいよね。ただ、ある程度の指標はあり、
- ADL/IADL(Instrumental ADL:手段的日常生活動作)
- Alb<2.0(予後不良のサイン) をチェックしていきます。
また予後を考えるにあたって、これらの疾患によって1年で3回以上入退院を繰り返している患者さんは原疾患の根治は難しく、終末期の状態を考えていきます。この患者さんのケースでは安静時の症状が出ると、生命予後が不良だと考えます。大動脈弁狭窄症の手術をして安静時症状がなくなれば、予後も改善するかもしれませんね。開胸術はもちろん勧めないが、TAVI(transcatheter aortic valveimplantation:経カテーテル大動脈弁置換術)はしてもよいかもしれない。推奨はすると思います。
ホスピスに紹介するタイミングですが、予後が短く(6ヶ月)、ほぼ座っているか寝ているかで、メインの治療が緩和(オピオイド、BZO:不眠、酸素、利尿剤:torsemide、吸入)になったような時に考えていきます。インターネット上では予後予測を行うに当たってまとまっているサイトがあります。
eprognosis:http://eprognosis.ucsf.edu/
このサイトでは、入院・外来・入所のセッティングでエビデンスに基づいた予後予測をしてくれます。このケースで試算してみると今後1年での死亡率は25%となります。したがって、手術侵襲を伴うTAVIをせずに呼吸リハビリをしたのは賢明で、予後を良くしていると思います。このサイトでの予後スケールではCOPDのステージを勘定に入れていないので、実際はもっと悪い可能性があります。深刻な話ですが、この患者さんは2年以内に亡くなってもおかしくないかもしれません。
また、このサイトでは、患者のQOLと予後期間ごとに実施された臨床研究の表があって、自分の患者に合う研究を参照できます。これは、患者さんやご家族に見せながら説明に使用することも出来ます。
K:この患者さんは終末期の状態と言えるでしょうか?
H:なかなか難しいが、上記理由で終末期といってもいいでしょう。彼の終末期の希望を聞くとよいでしょう。残された人生で何を優先し、何を望むか。ただ繰り返しますが、COPDの予後予測は非常に難しいです。
筆者所感
実際のホフマスター先生の感覚でも人の終末期を決めるという事はとても難しいように思われました。人の死の予測は難しいからこそ、体が元気な時、判断能力がある時に自分の最期の時をどのように過ごしたいか、自分の人生で最期まで大事にしたい事とは何かを考えておくことが必要ですね。できればそれを周りに伝えておくことも重要なことかもしれません。
僕ら医師は終末期を迎えた患者さんにとって何が一番その人に対して一番幸せな医療かをいつも考え、頭を悩ませることもしばしばあります。だからこそ、患者さんから僕たちに安心して人生の最期を託していただけるように、普段からこのような話を自然にできる関係ができればよいですね。
という事で、今回も学びが深かったですね~!
ピッツだよりをご覧の読者の皆様、次回の話題も是非学びの深いものを提供させていただきますので、お楽しみに~!!
文責:松口