#015 "がん患者における神経因性疼痛のマネージメントについて"
“ピッツだより”をご覧の皆様、初めまして!松口察央(飯塚病院総合診療科飯塚・頴鴎家庭医療プログラム後期研修医)です。
当院で平成26年9月にUPMC(ピッツパーグ大学メディカルセンター)より、家庭医学を修めたあと、在老年医学・緩和ケア領嫌に活躍されているホフマスター先生をお招きし、今回も講義やケース提示を通して多くのことを学びましたので、皆様にもその一部をご紹介したいと思います。
今回テーマとなった者年医学、緩和ケア領域の知織は,世界が注目するほどの高齢化社会を迎えている我が国では、専門に関わらず高齢者を診る機会のある医師には必須の知識だと思います。このピッツだよりでは、老年医学におけるCGAという高齢者の健康状態の評価方法、またレジデントが経験したケースを通しての学びをお届けしたいと思います! !
<がん患者における神経因性疼痛のマネージメントについて>
2014.10.1 松口医師のケース
【ケース】
70歳男性で2年前に診断された食道がんに対し放射線治療を行っていたが、血痰の症状が続いていた。吐血によりI病院救命センターへ搬送。上部消化管内視鏡では出血点はなく、喉頭~咽頭に腫瘤があり、進展した喉頭がんからの出血を考えて入院となった。しかし、本人は積極的な治療を望まなかったため、症状緩和目的で1病院緩和ケア科に転床となった。入院後は血痰が少量持続し、右下顎から右後頭部にかけて鋭いビリッとした痛みを認めるようになった。主治医である松口は神経痛を疑った。
内服薬:ブレガバリン(75mg/day、バルプロ酸(200mg/day)、フェンタニルパッチ2mg/day
松口:以下M):痛みの由来としては、がん性疼痛や、骨性の痛みではなく、神経由来の痛みだと思うのですがいかがでしょうか?
(ホフマスター先生:以下H) どうして神経痛だと思っているの?
M:鋭い痛みで、三叉神経が走っている体の部位に痛みがあったからです。
【デイスカッション】
H:神経痛は、神経経路のいかなる障害でも起きます。
- 感覚受容器⇒末梢神経(化学療法、DM、ウイルス感染、外傷)
- 脊髄後角⇒脊髄(外傷、慢性の神経症)
- 視床⇒皮質知覚領域(脳梗塞、多発性硬化症)
神経レベルごとの痛みの原因を考えよう!
神経痛の性状は……
刺すような・焼けるような・電気ショックのような・鋭い
ズキズキする・ビリビリする・感覚のない持続的で難治性。
骨由来であったりすれば動くと悪くなる
この患者であれば、化学療法後・癌の浸潤・放射線治療の後だから、神経痛はあってもおかしくないでしょう。
M:プレガバリンや、バルプロ酸を使用しましたが、なかなか患者さんの痛みが引かなくて、どうしたら良いのでしょうか?
H:神経痛のコントロールは難しいです。オピオイド(麻薬類:モルヒネ、トラマドール、ハイドロコドン、オキシコドンなど)は様々な神経痛に対して効果はあるが、ばっちり効かないこともある。ひどい神経痛には使いましょう。
そこに2次的に使うのが抗てんかん薬(ガバペンチン、プレガバリン、カルバマゼピン、テグレトール)や抗うつ薬だ。Naチャネルブロッカーも使うことがある。抗けいれん薬は比較的よく効く。特にプレガバリンはアメリカでは高価で保険適応がないことが多いので、安いガバペンチンをよく使う。しかも効果のキレも良い。副作用は鎮静やめまいで、用量依存性なので、100mg3錠分3の低用量から開始して、400mg3錠分3まで増やせる。血中濃度の測定も必要ないので、副作用の みチェックすればよいでしょう。
三環系抗うつ築はアミトリプチン、ノルトリプチリンもよく使うが、たくさんの抗コリン系副作用に注意しなければならない。特に65歳以上では。SNRI:venlafaxine(Effexa)、duloxetineなども使うね。SSRIは神経疼痛には基本的に使わないです
ここまでまとめると、1.オピオイド、2 抗けいれん剤、3.SNRI or 三環系抗うつ薬、4 リドカインゲルの順に使うかなあ。リドカインゲルは副作用も少ないのでお勧めですね。
また、メサドン(麻薬の代替薬)が使われ始めているが、取り扱いにとても注意を要するので専門家の意見が必要ですね。
その他には薬物が効きにくい神経疼痛には神経ブロックもよく使います。まず、問題の神経にリドカイン注射を試みます。問題の神経の焼灼を行うこともある。これは、三叉神経痛のような体表外部の神経で有効だ。他に、腰痛ではTENS(脊髄根を持続電気刺激する療法)もある。
後はカプサイシンクリームを使用する事もあります。末梢神経をオーバーロード刺激して痛みを軽減します。逆に悪くなる人もいるので症状の変化を見ながら行いましょう。
M:なるほど。教科書的にはどれが1番効き目が強いかはあまり書かれていなかったので、このように体系約に治療を考えていくことで、次の一手を準備できますね。薬物以外にはなにか出来る事や、指導することはありますか?
H:薬物以外には、認知行動療法、太極拳、心理療法などを慢性疼痛へのアプローチとして行うことはあります。この患者さんには、苦痛を除去できず、予後を正確に把握でき、しかも予後が良くない場合は鎮静剤による眠りの状態にもっていくことも検討します。でも最後の手段だから使用するときには十分治療を行った上で、検討すベきでしょう。
筆者所感
痛みの訴え方というのは、人それぞれでとても評価が難しいように感じます。しかし、痛みというのは最も患者さんを苦しめる症状の1つであると思いますので、適切に評価を行いかつ、治療がうまくいかなかった時の次の一手の治療を用意しておくことが重要になってきますね!勉強になりますね。
次回は老年医学領域からの学びをお届けします!どうぞお楽しみに!