#005 "DM外来診療の Rule of three"
にっぽんの家庭医MLをご覧の皆様
飯塚病院、家庭医療後期研修医の吉田と申します。 アメリカ・ピッツバーグ大学家庭医療部の先生方をお呼びして 得た学びを”ピッツだより”としてお届けします。2009年9月下旬、ピッツバーグ大学臨床準教授のDr. Dewarが再び飯塚に来られました。 第5回は、糖尿病管理についてのケースプレゼンテーションでのディスカッションの模様をお伝えします。
”DM外来診療の Rule of three” (症例1)
44歳女性が職場検診の結果を持って外来にきた。 身長158cm、体重65kg、BMI 26、血圧120/80mmHg、HbA1c 7.1%、 FBS 140mg/dl、飲酒:ビール350ml/日、母が糖尿病で、自分も糖尿病になるんじゃないか心配。
DMの教育、減量、断酒、継続受診、食事療法、運動療法…初診での説明に30分かかった。指導医に、30分は長いから、エッセンスだけまず話せば良いといわれた。何をどうやって伝えたらよいか。以下、Dr.Dewarのコメントです。
効率よくDMについて話すためには
- アメリカでは、初診30分、再診15分×4(慢性疾患)
- 日本では、再診 5分×12回/年、あなたたちはより頻回に診察しているでしょ? 必要な項目を小分けにして話しましょうよ。
- Information paperを活用する
-
Check listを活用する
-Diet(食事)
-Execise(運動)
-Eye(発症して5年以内→合併症なし、症状なし は急がない)
-Foot care
-HbA1c
-眼科受診
などなど外来で少しずつやっていく - 電子カルテの中にリストを挿入したり、紙カルテの中に、プリントしたリストを挟む
- 患者診療中はリストをチェックし、その日の外来の最後に書ききれなかったカルテ、次回のプランなどを埋めていく。
- 日本のDM診療ガイドラインを参考にして、チェックリストをつくるといいね。
初診でやること2つ
-
きちんと診断して、患者に告げる(この人は…FBS とHbA1c から糖尿病ですね。)
→きちんと運動療法・食事療法をすれば、服薬なしで治る - 1ヶ月後に受診するよう告げる(網膜症、重度の腎症がなければ)
飲酒の推奨量は?
糖尿病患者では、飲酒は1g、7kcalと高カロリーな上、肝臓での糖新生抑制のため、低血糖が誘発されることもある。一日エタノール換算で30ml(ビール350ml)までとする。つまりこの人はこれ以上の量の飲酒は勧められません。
一回の受診で患者をハッピーにするには?
- あなたたちは一体私の講義をどれだけ覚えていますか?
-
医者は最も頭がいい部類だと思うが、それでもレクチャーで覚えているのは25%くらい
→たくさん時間をかけて説明しても、患者がより覚えてくれるわけではない。
→いちばん宣伝効果があるのは何ですか? テレビやラジオのCM です。 - そこで、外来でしゃべる時のコツを教えます。
Rule of three
- 3topics
- 3times
- あなたは糖尿病です。あなたの母も糖尿病だから、あなたも糖尿病になります。あなたは運動をしたほうがいいです、あなたの糖尿病のために。あなたがどれくらい運動をしたか、次回の外来で聞きますよ、あなたの糖尿病のために。
- コマーシャルのサブリミナル効果のように、患者の頭に刷り込まれるくらい繰り返しましょう。一度の外来で取り上げるトピックは3 つまでです。
手書きは大事
- パンフレットの一部をペンで囲んだり、手書きのメモを書きながらわたしたり。
- 相手が帰宅しても、メモが残るでしょ。
この人に内服治療は必要か?
-
この人が運動にはまって、トライアスロンなんかをやりだしたら、このDMはどうなりますか?
→改善しますね。でも、2型DMなので、いつかまた悪くなります。完治はしません。 - 1stチョイスは…絶対ではないが、メトホルミン(メデットR、メルビンR)がいいと思う。
副作用:下痢と腹痛です。予防には、食事と一緒に服用し、増量は少しずつがよい です。他に乳酸アシドーシスがあります。この薬は使いこなせた方がよい。他のDM治療薬の効果をアップします。アメリカでは2g2xまで使えます(日本では750mgまで)。
→メトホルミン最高量でもだめなら、アマリールを使います。
少なくてもいいから、自分が良く使う薬の投与量、最高量、副作用とその予防法は覚えておきましょう。
低血糖にならないの?
- 服薬開始後に症状があれば電話が外来に入り、看護師が記録する。
- アメリカでは、インスリン治療をする人は減っている。
インスリンの適応は
- 2型インスリン抵抗性DMには効かない
- 膵性糖尿病にはインスリンがいい
Hb1ACはいくらになればよいか
-
6.1以下はタイトコントロールとなる ⇒ 低血糖となり、危険。特に高齢者は低血糖症状がわからず、意識障害・転倒など
→アメリカでは、6~7ぐらいが一番いいといわれている。 - 自己血糖測定 週3回 を勧めることある(3回中1回は起床後、1回は夕食前がGood)
- 自分がどれだけ食べて血糖が上がっているか分かる(因果関係がわかりやすい)。
- また、低血糖の確認のために自己血糖測定をすすめることもある。
他にフォローする内容
-
HLはあるか?
→100以下が目標、リピトールで達成している。 -
高血圧のフォローをしよう
→糖尿病の合併症予防には、高血圧治療の方が効果が高い。 -
腎機能・尿検査(微量アルブミンを含む)
→1年に1回でOK。 →高血圧がなくても、?量のACEIは蛋白尿を予防する。
ACEとHibは医療を変えた
ACEはDM腎症予防に劇的な効果がある。使うべし。
薬をやめることはあるのか
HbA1cが6以下だと、中止することはある。たいてい、患者がライフスタイルを改善させているので、褒めた上で中止する。他に、メトホルミンの乳酸アシドーシスなどがあったら、中止することもある。ただ、大抵は、DMは年と共に悪化していく。
Tell them good things!!
Do Celebration!! 患者が生活改善をうまくやったら思いっきり褒めましょう。
筆者所感
患者が最も影響を受けるのはテレビ。だからこちらもテレビコマーシャルの真似をして患者に良い影響を与えよう。というのがDr.Dewarの“Rule of 3”のヒントのようです。
You have diabetes. Your mother has diabetes, so you have diabetes, too. You should do exercise for your diabetes. I will ask you how much exercise you did in next visit for your diabetes♪
英語で聞くと、抑揚があっていいリズムです。“ああ、私は糖尿病なんだ”と強く刷り込まれそうです。また、“Rule of three”は、読み手に分かりやすく面白く情報を伝える、English Writingの基本技術でもあるようです。
なお、Dr.Dewarは大変な褒め上手。私たちもプレゼンの後は笑顔で”Good Job!!”をもらっています。先生の最近の流行りは”Good,Good,Good,Good…!!!!(両手でGoodサインを作って交互に機関銃のように連射)”です。
Dr. Dewarはメトフォルミンを推奨していました。重大な副作用である乳酸アシドーシスは、めったに起こらないという話でしたが、一応調べてみました。疫学的には、メトフォルミンによる乳酸アシドーシスが起こる頻度は10万人/年あたり9人程度です(Diabetes Care 1999; Inciedence of Lactic Acidosis in Metformin Users)。乳酸アシドーシスは① 腎不全(男性Cr 1.5以上、女性Cr 1.4以上 )、② 肝疾患またはアルコール乱用患者、③ 心不全、④ 乳酸アシドーシスの既往あり、⑤ 循環動態不安定、⑥ 低酸素または急性疾患時 では血中濃度が上昇しやすく、乳酸アシドーシスの頻度が14~27%まで上昇すると報告されており、禁忌ですし、このような病状になったら投与中止します。あと、シメチジン(タガメットR)と薬物相互作用があり、血中濃度が増加します(UpToDate: Metformin poisoning)。
上記を除けば、単独での血糖降下作用、他の経口血糖降下薬の作用増強、体重の減少ないし安定化などのすぐれた効果があり、米国や欧州の糖尿病協会のコンセンサスでは、2型糖尿病の第一選択薬となっています。
ピッツだより は皆様のやさしさで連載寿命が延びることがあります。 どうぞ忌憚のないご意見、ご感想を頂ければ幸いです。 レスポンスをお待ちしております。