医療・介護関係者の方へ

For medical staffs

#003 "Hypertension" -PART1-

2009年9月下旬、ピッツバーグ大学よりDr. Dewarが再び飯塚に来られました。今回は小児科病棟指導医である奥様もご一緒です。Dr. Dewarといえば、第1回ピッツだよりで取り上げた、“Care the Caregiver”のフレーズを用いて往診のポイントを伝えて下さった方です。

今回の招聘では、Dr. Dewarより、高血圧に関して、 ①レクチャーで基本を学ぶ ②症例発表で臨床疑問にアドバイスをもらう ③同じ患者で、実際の外来診療を指導してもらうの3本立てで教えて頂きました。そこから印象深いテーマを抜粋して、この原稿をつくりました。飯塚にアメリカ家庭医療の風が吹き込まれていく様をお楽しみください。

Ⅰ.レクチャー

デュワー先生が、高血圧のレクチャーで最初に述べたのは以下のような話でした。

測定方法が大事
48歳男性が、一時間以上も待たされている。急いで診察室に行くと、2分前に通された患者がベッドの上に座っていてコーヒーを飲みながら電話ごしに怒鳴っている。彼の血圧は158/74。この人は高血圧か?

  • 5分間は安静にしていること
  • 座っていて、背中と足がついていること
  • コーヒーやタバコを30分以内に摂取していないこと
  • 正しいカフサイズを選ぶ

すべてやったら、138/58でした。あなたは高血圧の治療をもうしてしまったことになります(><)

以下、レクチャーでは難治性高血圧、2次性高血圧の説明がありました。

Ⅱ.症例プレゼンテーション

私の症例
ADL自立した、トラック運転手の70歳男性の高血圧(初診時216/84mmHg)に対し、3ヶ月間CaブロッカーとARBで治療したが血圧は160/80mmHgと依然高値である。彼は一日20本の喫煙者だが、今のところ禁煙の意思はない。彼の妻も高血圧であり減塩食をつくっていると本人は言う。彼は毎朝1時間、自転車に乗って運動している。彼は前立腺肥大があり、αブロッカーを内服している。また、脊柱管狭窄症による右下肢痛があり、NSAIDsを内服している。

私のたてた治療プランは、①サイアザイドの追加 ②スパイロメトリをやってもらい、肺機能をみて禁煙を促す ③妻を連れてきてもらい、夫婦で栄養指導をするです。これらを提示したのち、以下の疑問をDr.Dewarに投げかけてみました。

  • 血圧が下がらない時、何を考えればよいか?
  • すぐに2次性高血圧の検索をしたほうがよいか?
  • どうやって禁煙してもらうか?
  • 彼の高血圧管理に、どうやって家族システムを利用することができるか?

Dr. Dewar の答えは…?

難治性高血圧の原因

  • 難治性高血圧の原因について考えてみてください。
  • 3つ以上の降圧剤(うち1 剤は利尿剤)が適切な用量で使用されていても目標血圧に達しない状態を、難治性高血圧と呼びます。
  • 殆どの患者では、BP コントロールに2 剤以上が必要です
  • JNC7(高血圧に関する米国合同委員会第7 次報告:2003)では、降圧目標をなかなか達成できないときや、診察や基本的な検査から2 次性高血圧の疾患が疑われないかぎり、ルーチンで2次性高血圧のスクリーニングは行わなくてもよいとしています。
  • これから言うことを、まず試してみよう。

禁煙の勧めかた

  • 手始めに、本数を減らすことはできそうですか?もし減らせたらおおいに褒めましょう。
  • アメリカでは、煙草を切って短くして吸ってもらうこともあります。
  • 禁煙でいくら節約できるか数えてもらうのはいかがですか。禁煙により、何か楽しいこと、得をすることを考えてもらいましょう。

減塩の勧めかた

  • 実践的アドバイス(Practical Advices!!)が大事です。私がよく言うのは"Take the salt shakers off the table."(食卓から塩ビンを取りのけましょう。)
  • 味蕾は、塩分で働かなくなります。最初は減塩食を味気なく感じますが、2週間で味蕾が回復し、薄味に慣れて、料理はおいしくなります。
  • よいTV CMはないですか。TVも医者も減塩を強調すると、患者にとっては大変な"powerful message"です。
  • 次回の外来でも、必ず減塩の工夫について尋ねましょう。

飲酒

  • 飲酒についても、もう一度聞いてみては。
  • 男性なら1日あたり2ドリンク(エタノール30mL=ビール350mL2缶)まで
  • 女性なら1 日あたり1ドリンクまでです。それ以上だと高血圧を増悪させます。

Reading Material を活用しましょう

以上、禁煙や減塩のアドバイスの仕方を話しましたが、患者は忘れてしまうものです。家に帰って見直せるように、Reading Material を活用しましょう。

  • 奥さんにも見てもらい、興味を持ったら改めて外来同伴をお願いしてみたらどうですか。
  • 食事指導パンフレットを見せ、大事なところに目の前で線を引いて、渡すのはよいです。
  • そちらの井村部長がやられているように、説明しながらメモ用紙に手書きして渡すのもよいですね。
  • パンフレットは、ネットに様々なものが落ちていますので、活用しましょう。

Interfering Drugsを中止しましょう

  • NSAIDs, 抗うつ薬、ピル、麻薬、ステロイド、免疫不全薬、EPOなどです。
  • この患者は、脊柱管狭窄症の下肢痛にNSAIDsを使っていますね。NSAIDsはCaブロッカーやACE,ARBの効きを悪くしてしまいます。
  • そちらの井村部長がやられているように、説明しながらメモ用紙に手書きして渡すのもよいですね。
  • アセトアミノフェンや硬膜外ブロック注射に切り替えるか、NSAIDsの量を極限まで減らしましょう。

薬物治療は

  • サイアザイドはとてもよいチョイスです。これは他の降圧薬の効きを良くします。
  • サイアザイドによる頻尿は、体液貯留のない人ならば約2週間で治まります。このことをあらかじめ患者に伝えておくと、服薬を自己中断してしまうことが少なくなります
  • 頻尿が治まらない場合は、拡張障害による心不全などを疑ってください。
  • ただし、この患者はトラック運転手でしたね。勤務中の頻尿は嫌われるので、ドロップアウトの素になります。だから先生のように、Caブロッカーから始めたのは良い選択だと思います。
  • 今はCaブロッカーとARBでしたね。殆どの患者では、血圧を下げるのに少なくとも2剤の降圧薬を必要としますので、あと利尿剤を追加しましょう。
  • ACEIとARBの使い分けですが、アメリカではACEIは月4ドル、ARBは月80ドルしますので、私はACEIを中心に使っています。

Ⅲ.外来見学&指導

翌週、当該の患者さんの診察に、Dr. Dewarに立ち会ってもらいました。

  • サイアザイドの内服は、最近親戚の結婚式が立て続けにあるそうで、見合わせました。
  • 煙草は、すでにちょっと本数を減らしたそうで、大いに褒めたところ、さらに減量してみようかとおっしゃってくれました。

…さて、受診時(病院にて、午前10時)血圧は140/80mmHgでした。血圧手帳を見ると、毎朝6時の値が170/90mmHgくらい。あれ、こっちの方が高い。。。

>起きてから、どうやって測ってるんですか?
>いやー、起きてすぐにトイレ行って、すぐに椅子に座って測っちょるよ。
>コーヒー飲んでない?
>いやいや、飲まんき。
>朝の降圧薬で測っているからかな???
>(Dr. Dewar)・・・起きぬけに煙草一本吸っていないですか?
>…おう、吸うちょるよ。目覚めの一本てやつやね。
>(Dr. Dewar) That’s it!! Stop it first.

一本とられた、という私に向かって、Dr.Dewarは言いました。

You may not know first smoking in the morning because you aren’t a smoker. Smokers often do that.

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