医療・介護関係者の方へ

For medical staffs

#001 "Care the Caregiver" -介護者を支えよう-

はじめまして、福岡県にあります飯塚病院家庭医療後期研修医の吉田と申します。昨年できたばかりの、まだ若い家庭医療認定プログラムですが、仲間の先輩と楽しく盛り上げているところです。

さて、飯塚病院では、本年度よりアメリカの家庭医療を学ぼうと、ピッツバーグ大学家庭医療講座の先生方を2月に一度招聘しまして、家庭医療の大先輩より、なぜかこの日本で、教えて頂けるありがたい状況となっております。

今まで、4月、6月、8月と2人ずつ招聘しまして、数多くの学びを得ました。自プログラムだけでとっておくにはあまりに勿体ない(と家庭医駆け出しの私が感じた) 学びについては、僭越ですがぜひ皆様と共有したく、”ピッツだより”を連載したいと思いました。

先輩の諸先生にもお話し、GOサインを頂きましたので、勢い連載を始めたく思います。乱文にて失礼すると思いますが、アメリカ医学の息吹が日本の地方都市に吹き込まれていく状況をありのままに書いていきたいと思いますので、お楽しみ頂ければ幸いです。

"Care the Caregiver" -介護者を支えよう-

今年の4月下旬、米国ピッツバーグ大学から、デュワー先生(Dr.Dewar)という、カーネルサンダース似の先生が指導にいらっしゃいました。さっそく私たちの往診をみて頂こうと、患者さんのお宅を訪問しました。高齢・脳梗塞で一日じゅう寝たきりのお母さんを息子さんが一人で介護されてあるお宅でした。デュワー先生と一緒にお母さんを診察しましたが、褥瘡(床ずれ)は一つもなく、ピカピカの背中をしていました。というのも、息子さんが数時間おきにお母さんの体交を行い、程よく体を包むようエアーマットの空気量を調節しているからなのでした。

デュワー先生はすかさず息子さんの目を見て“You are a nice doctor!!”とにっこり笑いかけました。

往診が終わった後、先生は私たちに“Care the Caregiver”(“介護者を支える”)ことの大切さについて話してくれました。

自分の本来の仕事に加え、日々の生活の中でご家族を看てある介護者には、苦労を理解されずに、または負担を軽減されずに苦しんでいるケースが多いです。介護者が疲れてしまったり、体を壊してしまえば、当の患者さんも大切な支えを失います。

デュワー先生の介護者チェックリストは以下の通り

  • 患者に必要なケア(体交、清拭、排泄、食介助などなど)ができているか⇒できていたら、とにかく褒める!!
  • 介護による疲労の度合い
  • その家での介護の限界
  • 必要な物品があるか
  • うつ状態かどうか、患者をネグレクトしていないか

デュワー先生は、続けて以下のような”Safety Net”を構築することで、介護者の負担を減らせると話して下さいました。

  • 訪問看護師に電話できるか
  • ショートステイは利用できるか
  • 他に介護を手伝ってくれる家族はいないか

顔見知りの療養病院に入院これらの選択枝を確保しつつ、ご家族に提示していくことで、”いざとなったら助けてもらえる”という安心感を与えることができると。一旦安心すると、家族は医者も驚く度胸で介護できるものだと教えて頂きました。息子さんへの笑顔と励ましには、そんな深い意味があったのですね。

その後、”Care the Caregiver” は頴田・飯塚病院の家庭医仲間で流行語となりました。この言葉を念じながら往診のドアを叩くと、気がつけば介護してある娘さんの健康状態や疲れを尋ねたり、家族の用事に備えてショートステイなどの準備を勧めている自分がいます。

”Care the Caregiver” の効能を、ぜひお試しあれ。

筆者所感

これは初回訪問の出来事です。言葉の壁を意識してたどたどしくふるまう我ら飯塚・頴田家庭医が、通訳を介して彼らと交流し気づいたことは、誰を大事にするかといった、以外と根っこの気持ちは同じなんだという安心感でした。ただ、彼らが圧倒的にうまいなと思ったのは、自分たちのアセスメント(Care the caregiver)と、プラン(Safety Net)を誰にでも分かりやすく言語化できるというところだと思います。

今回のフレーズは特にかっこいいと思うのは、私だけでしょうか。。。
ピッツだよりは皆様のやさしさで連載寿命が延びることがあります。
どうぞ忌憚のないご意見、ご感想を頂ければ幸いです。レスポンスをお待ちしております。

飯塚病院 飯塚・頴田家庭医療プログラム
後期研修医 吉田 伸

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