#002 "Dementia" -ピッツバーグ家庭医療学教授の講義より-
さて、第2回は、ピッツバーグの認知症に関するレクチャーからの学びをお伝えします。
"Dementia" -ピッツバーグ家庭医療学教授の講義より-
8月5日、ピッツバーグ大学家庭医療学教授のDr.South-PaulがいらっしゃってDementiaのレクチャーをされました。女性教授として家庭医療学をリードし、Current Diagnosis & Treatment in Family Medicineの編集もしている先生の語る、Dementiaのポイントとは?
なぜ認知症を診断する必要があるのか?
- 可逆的な原因をみつけるため
- 薬物治療により、症状の進行と行動障害を減らし、ヘルスケア利用を節約するため
- 非薬物的治療により問題行動を減らすため
- 介護者・関係者に対し、認知症患者に対処する戦略を訓練するため
最後の項目に関して、認知症患者の介護者の苦労とケアのポイントを書いた,家族向けの良書として”36-hour day” を勧められました。
認知症の診断は?
- 必ず、家族に病歴を確認する
-だって、本人は本当のことを言わないのだもの!! - 認知症状のベースラインを評価する
アルツハイマー型認知症のスクリーニングセット
- MDS (Minimum Data Set)
- MMSE
- Clock Drawing Test
-
Labo
-CBC
-電解質(Ca含む)
-血糖
-TSH
-Vitamin B12、葉酸
-RPR / VDR / ESR
-MRI または CT (脳血管障害、水頭症、硬膜下血腫)
-他に(ライム病titer, HIVテスト、尿検査for Urosepsis、肝機能、髄液検査、重金属 など)
- 特に60歳以下の患者では、頭部CT・MRIは撮影しなければいけない
- 重金属は、職場・土壌環境から鉛暴露などを疑うとき
MMSE と IADL/ADL の相関関係
認知症患者のMMSE スコアから、IADL,ADL の障害を予測することができる。MMSEが5点だったら、患者さんが自分で食べられると言っていても疑わしい。。
→家族にチェック!!
25~15 点(発症4 年以内)
⇒約束を守れなくなる、電話を使えなくなる、食糧を調達できなくなる
20~10 点(発症2~6 年)
⇒ 一人で旅行できなくなる、電化製品が扱えなくなる、持ち物を見つけられなくなる
20~5 点(発症3~8 年)
⇒ 服を選べなくなる、着衣できなくなる、整容できなくなる、趣味を続けられなくなる、ゴミを片付けられなくなる
15~4 点(発症4~8 年)
⇒ テーブルを片付けられなくなる、歩けなくなる
12~2 点(発症6~9 年)
⇒ 食べられなくなる
※出典:Adapted from Galasko D, et al. Eur J Neurol. 1998;5(suppl 4):S9-S17.
おすすめ、Clock Drawing Test
- 患者に、指定した時間の文字時計を書いてもらう
-
見るべきポイントは4つ
1. 円をきちんと閉じて描けるか
2. 12個の数字をすべて描けるか
3. 数字を円内の正しい位置に描けるか
4. 針は正しい位置にあるか
※4点満点で採点する
認知症のマネージメント
- Who manage this....? Their family do!!
- 家族会議を必ず行う
- 他の基礎疾患をコントロールする (DM,うつ病など、認知症状も改善するかも)
- 安全な環境を確保する(車や自転車の運転をしていないか?)
- 日常生活を規則正しく保つ(毎週別居の家族から電話させる、同じヘルパーさんが毎日来る)
- 家族にADL をモニターしてもらう(自分でできる工夫はないか?服薬チェックボックスなどの使用)
- 症状の急激な変化が起きたら、せん妄を疑い、急いで評価する
- 介護者の負荷を評価する
介護者の負荷
健康面 | ストレス、睡眠障害、つかれ、不安、うつ |
---|---|
社会面 | 孤独、家族や友人と電話したり過ごしたりする時間の減少、社会参加の減少 |
経済面 | 退職、非雇用の介護時間、生産性の減少 |
※日本では娘さんばかり介護しているのではないですか?と聞かれ、会場苦笑い…
最後に
Dr.South-Poleは、会場の指導医・レジデントに対し、”自分の家族を介護したことはありますか?”と尋ねました。
誰も手を挙げないのを見て一言。
"That's so stressful."
"The most important therapist is the caregiver, never you."
"We just do the best for them as a physician."
そして締めくくり
"家族が80歳を超えれば、25%が認知症になります。あなたたちもいつか必ずこの問題に直面します"
"寿命の長い、ここ、日本なら、なおさらですよ。。。"
(筆者所感
South-Paul先生の体からは、いつもエネルギーが漲っている感じがします。そのレクチャーも、オバマ大統領の演説を見るようで、クリアな英語の一言一言に力がこもっています。
”The most important therapist is the caregiver, never you!!”
締めの言葉がかっこいいです。DVDで見返しても体が震えます。
移動のタクシーや講義の前後に話しましたが、冗談を言ったり、おなかが減っていないか気遣ってくれたり、とても気さくな方です。飯塚に来ていても、毎日散歩とジム通いを欠かさない、まさに健康増進のお手本です。
一緒にいられた2週間は最高でした。
この講義での、私の発見は3つです。
- 1. MMSEである程度、ADLを予測できる(そのあと家族にも確認が必要でしょうが)
- 2. 時計を書くテストは有用
- 3. 認知症患者の運転は(改めて言われると)べらぼうに危険