医療・介護関係者の方へ

For medical staffs

#007 "ジャーナルクラブの運営方法"

今月は、ジャーナルクラブの運営方法ついての、レクチャーの内容をお届けします。

ジャーナルクラブは、この1年間、家庭医療プログラムの勉強会の内容についてUPMCからアドバイスを受けるなかで強く定期開催を勧められてきたもののひとつです。今回の訪問では、主に医学部教育を専門とするDr.Xia(ジャー先生)より、研修医・専修医向けにJournal Clubの基本的なレクチャーと、実際我々が主催してみたJournal Clubに参加してもらい頂いたアドバイスをまとめてみました。

前半:ジャーナルクラブのいろは

なぜ、ジャーナルクラブをやるのか

  • 家庭医に必須のCompetency(能力)を向上させることができる
    -Practice Based Learning

診療で浮かんだ疑問から臨床疑問をつくる、得た医学情報を適切に吟味できる

-Patient Care(研究結果を患者に適用する)
-Medical Knowledge(診療に必要な知識をUpDateする)

  • 前提として、コモンで臨床診療に重要なテーマを選ぶこと

まず臨床疑問をつくる

  • Patient どんな患者に
  • Interventionどんな介入をして
    (検査、治療、疫学要因、予後因子:後者二つはExposure→PECOとなる)
  • Comparison介入しなかった群とくらべ
  • Outcomeどんな効果を期待するか

論文はどこから探してくるか

  • 指導医がレジデントの論文検索を助ける
  • 日常診療で発生する疑問に答えてくれそうなものを検索する
  • UpToDateの検索は早い→レファレンスに飛び、個々の一時研究の妥当性を調べる
  • 臨床疑問がはっきりしていれば、Pubmed、NEJMなどで検索、ヒットした論文が最新のものでなければ、同じ検索語でMeta-analysisをあたってみる
  • Journal Clubでは、原則,1次研究(個々のRCT、Cohort Study、Case-Controlled Study)を用いる

良い論文探しの3大ポイント

  • Validity 正当な研究手法を用いているか(ランダム化、盲検、メインアウト カムの設定)
  • Clinical Evidence エビデンス
  • Applicability あなたの患者に適応できるか

知りたい疑問ごとに、あたる研究のデザインは異なる

  • 診断 ある患者群をゴールドスタンダードで診断された患者群と比べる
  • 鑑別診断 ある患者群で、新しいテストを使ったものと、ゴールドスタンダードや診断基準を使ったもので比較する
  • 治療RCT
  • 有害事象 コホート研究、症例対照研究、断面研究?
  • 予後コホート研究

EBM Resourcde Pyramid ~情報源には質の優劣がある~

※質の高いものから順番に列記

Filtered resources:研究の質を鑑定されている情報源

1. Systemic Reviews/Meta-Analyses:立てた臨床疑問に対し、すべての論文を検索し、良いものだけを集めてRecommendationをつくるもの。個々の研究をまとめる際に統計手法を用いると、Meta-analysesとなる

The Cochrane Database of Systematic Reviews
The Database of Abstracts of Reviews of Effect (DARE)

2. Critically-Appraised Topics:著者がトピックごとにいくつかの研究を批判的吟味し、まとめたもの

Clinical Evidence
FIRSTConsult
National Guideline Clearinghouse
ACP PIER
JAMA Rational Clinical Exam Series

3. Critically-Appraised Individual Articles:著者が個々の論文を批判的吟味し、評価・要約したもの

The ACP Journal Club
EvidenceUpdates
Evidence-Based Nursing

Unfiltered resources:質を鑑定されていない、個々の研究論文。Journal Clubではこの分類の論文を用いる

4. Randomized Controlled Trials (RCTs):介入以外の集団要素を揃え、介入による比較を行う。介入するかはランダム化・盲検が望ましい

5. Cohort Studies:暴露以外はそろった集団を用意し、結果を比較。喫煙など、ランダム割り付けできない

要因について調べるときにいい

6. Case-Controlled Studies:まれな疾患の要因について調べるとき。レトロスペクティブ研究

PubMed
Ovid MEDLINE
EMBASE.com
PsycINFO
CINAHL
Cochrane CENTRAL Register of Controlled Trials
PubMed Health Services Research (HSR) Queries

などで検索可能

7. Expert Opinion/ Background Information:専門家の意見から上質なエビデンスまで様々

UpToDate
eMedicine
search.HSLS E-Book Full Text
Harrison's Online
ACP Medicine
ACS Surgery

患者に適応するには

目の前の患者と、研究に使われた患者群が違っていないか
患者の価値や志向が、研究のアウトカムと違っていないか
副作用や費用が、アウトカムのもたらす利益に対して見合っている

1次研究の正当性のポイント

  • ランダム化
  • 盲検
  • 対象集団が目的に沿って選ばれ、定義されているか
  • 比較できる予後 (研究最初から最後まで妥当な比較集団を評価しているか)
  • ゴールドスタンダードに基づく診断基準を使っているか
  • 十分なフォローアップをしているか

※ すべての要件を満たす論文はなかなかないが、それぞれの欠点を知った上で、自分の臨床疑問に答えうるか判断するのが臨床医の醍醐味

結果の評価

  • 有効性:
    -ARR(RD)
    -RR:RCTs
    -OR: Observational cohort
    -LRs: diagnosis
  • 正確性:
    -CI (Confidence Interval )

平均値がOR 1以下、1以上となっていても、CIが1をまたいでいては統計学的有意ではない。一般的に、Nが大きくなると、CIの範囲は狭くなる。

  • 効果と副作用の重大さ: NNT or NNH

(検査)
検査前オッズ比×LR=検査後オッズ比
(具体的なJournal Clubのすすめかた)

  • 臨床疑問はなんですか?(5分)
  • 論文の要約プレゼン(20分)
  • ディスカッション(20分)
  • 論文の結果について
  • 論文のデザインについて
  • データ解析の妥当性について
  • <研究の限界/li>
  • バイアス
  • 臨床的に重要か?

後半:ジャーナルクラブをやってみました

胆石性膵炎に対するERCPの比較試験
Early Endoscopic Retrograde Cholangiopancreatography in Predicted Sever Acute Biliary Pancreatitis.
Annals of Surgery 2009;250:68-75.

  • PROPATRIAという別のコホートスタディの患者群と結果を用いてサブ解析したコホート研究

今回の臨床疑問は
P 胆石性膵炎の患者に
E ERCPを行うと
C ERCPを行わなかった群に比べ
O 重篤な合併症が減少するか?
(このスタディはValid(正当)か?)
結論:Validではない。

  • 治療介入による結果の比較をしたいのに、この試験はRCTではない。
  • コホートスタディは、観察をしただけ。
  • いくら患者群をそろえても、実際のERCP施行の是非は担当医にゆだねられる。

そこに、見えない交絡因子が関わっていることを否定できないため、たとえ結果に有意差が出ても、それが治療介入によるものとは言えない。

  • たとえば、この試験では胆汁うっ滞群でERCP介入数が多く、保存治療数が少ない。

ここに、“担当医が重傷だと思ったから保存的治療にした”という可能性を否定できない。

  • Validな試験にするためには、治療介入以外の条件をすべて揃えた、RCTである必要あり。

筆者所感

今回は、Dr.XiaからJournal Club運営の手ほどきをしてもらいました。改めて印象的であったのは、知りたいアウトカムに合わせて、スタディデザインを決め、それにあった研究を選ぶということです。今回私たちが提示した、胆石性膵炎に対するERCPの介入試験も、知りたい疑問が治療効果であるのに、スタディデザインがRCTではなかったところをDr.Xiaに指摘されてしまいました。そうなると、いかに臨床疑問にあったデザインの研究を用意するか、検索の仕方を勉強したくなりました。

今回は研究の質についての話が多かったですが、Journal Clubのいいところは、得られた研究結果から、臨床疑問がどれだけ解決し、どれだけ明日の診療行為が変わるか考えることだと思います。そのため、日頃より、本当に診療に役に立つ臨床疑問をたてられるような習慣をつけていけられればと思いました。したがって、今回のレクチャーでは、Journal Clubは個々の1次研究(RCTなど)を扱うことになっていましたが、“医学情報を吟味できるようになる”にこだわらなければ、Journal Clubで2次研究(Systematic Reviewなど)を扱い、手っ取り早くRecommendationを把握することも初学者にはアリなのではと思いました。このあたり、皆さんはどのように考えられますか?

ピッツだより は皆様のやさしさで連載寿命が延びることがあります。 どうぞ忌憚のないご意見、ご感想を頂ければ幸いです。 レスポンスをお待ちしております。

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