米国家庭医療の指導医から得た学びについて。頴田病院では、飯塚・頴田家庭医療プログラムの一環として、米国家庭医療の指導医を定期的に招聘しています。

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ピッツバーグからの学び

#009 “DM management(糖尿病の治療)”

今月も“ピッツだより”と題しまして、私たちが米国ピッツバーグ大学から招聘した医師から学んだことをお届けします。

今月いらっしゃったのは、ピッツバーグ大学家庭医療学部教授のDr.South-Paul(サウスポール先生)と、ピッツバーグ大学がんセンター准教授、腫瘍内科専門医でいらっしゃるDr.Agha(アガ先生)です。今回は、その中から、吉田がDr.South-Paulとコラボして医学生向けに行ったオープンセッションの内容をお届けします。糖尿病患者の外来症例発表に、Dr.South-Paulはどんなコメントをしてくれたのでしょうか。九州の地方都市に、米国家庭医療の風が吹き荒れる様をお楽しみ下さい。

ピッツだより⑨ “DM management(糖尿病の治療)”

(症例)
51歳女性。主訴:吐き気、しびれ
5年前糖尿病の診断を受け、5か月間インスリン治療を行ったが、途中で通院をやめていた。受診日の朝より両手のしびれと嘔気があり来院したが、待合室で症状は消失した。
既往歴 :高血圧、糖尿病はなし
服薬 :なし

-いつもの頴田セッションのようにやりましょう。ここで聞きたいことは?

(学生より)

-これは大事ですね。介護士の仕事の動作でしびれが誘発されたりはしないですか?また、そのようであれば、糖尿病性神経症が仕事に影響を与えているかもしれない。

-仕事で運動療法をやったことになるでしょうか。仕事の運動量というのは、その日その日で違いますよね。また、一瞬の筋肉を使う運動より、ジョギングなどの持続的な有酸素運動のほうが血糖降下作用が強いといわれています。仕事以外に、ジョギングなどの運動の時間を、自分でどれくらいやったかわかる形で取り入れたほうがよいのではないですか。

(糖尿病患者さんに聞くこと)
-だいぶ皆さん聞いてくれましたね。それではまとめてみましょう。これらは、もちろん他の疾患の患者さんにも聞かなければいけませんよ。

Habit(癖・趣味) 5 年前に他院で糖尿病と診断後、ドロップアウトしている
Exercise(運動) 介護職の患者移乗動作のみ
Diet(食事) 家族のご飯をつくっている。減塩は自主努力している
Smoking(喫煙) なし
Alcohol(飲酒) なし
Drug(服薬) なし
Sleep(睡眠) 問題なし

-特に、この患者さんでは、5 年前に一旦通院を止めていますね。Habit(中断癖とその原因)について詳しく教えてください。
→ インスリン注射を勧められ、試してみたが、針が痛く、気が進まなかった。同じく糖尿病の兄に“糖尿病患者がインスリンを打つのは末期の状態”と言われ、怖くなって打つのをやめ、受診もやめた。

(心血管イベントのリスク因子)
-さあ、糖尿病だけを見ていてはいけません。この患者に、他の心血管疾患のリスクがないか、考えてみましょう。例えば…

-これらのことを考えてから、身体所見と検査にいくのですよ。

(身体所見と検査結果)
診察上、意識は清明で、発熱・血圧低下・頻脈・頻呼吸はなかった。BMIは17.4とやせ型。頭頸部・胸部に異常所見なし。腹部圧痛なし。両上肢・両足に異常感覚・感覚鈍磨なし。神経学的異常所見なし

WBC 6060、Hb 13.7、HbA1C 15.3%
Na 134、K 4.2、Ca 9.4、BUN 15、Cre 0.4、Glu 487、HDL 81、LDL 102、TG 155、抗GAD抗体陰性
尿潜血陰性、尿蛋白(試験紙)陰性、尿中微量アルブミン 39.5mg/g・Cre
DDx of nausea and numbness(両手)

↓頭蓋内(SAH,Stroke)
↓Guillan Barre
↑脱水(thirsty,bleeding)
↓Metabolic(↑DM,↓Alcohole)
(Common things are common!!)

-鑑別を挙げた後は、最もCommon(よくある)ものから考えましょう。
診断は脱水+糖尿病性神経障害でよいでしょう。

(この糖尿病のマネジメントは?)
BS480, HbA1c15.2. Type2,神経症+、腎症+
尿中ケトンは陰性、外来で生食500ml点滴にて嘔気は完全に回復
この後どうするか…?

A 飯塚病院の糖尿病内科に紹介
B 頴田病院に食事指導+インスリン導入目的で入院
C 外来でみる

-まず、緊急入院の適応について考えましょう。今はまだ、緊急な状況(HHS,ケトアシドーシス)ではないですね。したがって、治療の目標は患者自身が自分の糖尿病を管理できるようにしてあげることです。

-ひとつめは、この患者には、今は気分が悪い以外の症状がないので、この先予想される 重大なリスクについて話さないといけません

(誰が糖尿病を診療するか)
-次に、患者がどうしたいのか聞き出して、患者との関係を作っていく、患者と話すことが重要ですね。患者の社会的背景を知った上で、一緒に選択肢を選んでいきましょう。この状態の糖尿病ならば、かかりつけは専門家でも、家庭医でもよい。ただし彼女の社会的立場を考えると、専門医と家庭医の2カ所にはかかれないでしょう。

彼女の長男には、重い先天性疾患があり、在宅での介護が必要である。また、夫に事業の借金があり、共稼ぎをしなければいけない。母親と介護士としての役割を果たさなければならず、彼女はあらゆる入院加療は希望しなかった。

(治療は内服か、インスリンか)
-51歳だし、閉経もするから、おそらくある程度の心疾患のリスクはあって、冠動脈病変もありそう。腎機能についても同じ。以上を考えるとインスリンがよいけれど、彼女が自己注射できるかどうかは、よく話してみて。

-(清田Dr.)
① インスリンがベストだけど
② 食事療法/運動療法を1ヶ月試して何か変わるか様子をみてみる

彼女はインスリンも拒否したため、ピオグリタゾンから内服治療を開始し、漸増しながらメトフォルミン、グリメピリドを順次追加していった。同時に眼科コンサルトを行ったところ、網膜症の所見はまだなく、定期的な眼底チェックも行うことになった。栄養指導も行い、彼女はサイダーなどの摂取をやめた。また、LDL 102に対し、スタチンを投与した。3カ月後、HbA1cは15.2%から11.1%に変化した。再度インスリン治療について勧めてみた。すると彼女は、インスリンに対しては、針の痛さや兄の勧めだけでなく “インスリンでかかる費用”を心配していたことがわかった。今後は、ご家族に外来に来て頂いた上で、病状とインスリンの費用について話し、インスリン導入の方針を決定する予定である。

- LDL 102は女性の場合そんなに高くない。薬は特にスタチンは副作用が出やすいので、今すぐ使わなくてもいいと思う。また、微量アルブミン尿があるので、腎保護作用を期待してACEI(エース受容体阻害薬:降圧剤)は投与したほうがよい。

(Take Home Message)
さて今回は、51歳女性の糖尿病のケースでした。
学生のみなさん、彼女の糖尿病を本当にケアするためには

Bio (重度の2型糖尿病、神経症、微量蛋白尿あり)
Psycho (入院の拒否、インスリンに対する不安)
Social (長男の介護、調理は自分、介護士の職、家の借金)

の3つの側面をすべて理解する必要があること、分かりましたか?

(筆者所感)
今回は医学生向けに、外来の糖尿病症例を、BioPsychoSocial Modelを用いてまとめてみました。Dr.South-Paulは、私が始めの病歴を少し発表したところで、“この患者の心理社会的背景について何が知りたい?”と会場に尋ね、発表を止めてしまったことが印象的でした。そして、糖尿病治療で、個々の患者さんの心理的・社会的な背景を知ることが、患者さん達自身による病気のコントロールにもっていくための近道であることを彼女は強調したのです。そういう意味で、この患者さんのケースは“Good Job”であるようです。

今後は、薬剤やインスリンの選択、糖尿病で高率に合併するうつ病のスクリーニング、食事・運動の問題など、まだまだやるべきところはありそうです。

最後に、はるばる飯塚まで視聴に来てくれた学生の皆さま、そしてDr.South-Paul、大変ありがとうございました。

ピッツだよりは、みなさまの優しさでできております。内容に関しまして、ご不明な点やコメントありましたら、どうぞ下記の吉田へお寄せ下さい。

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